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債権がとりくずされ、成熟債権国の看板を降ろしたあとはどうなるのか。
おそらくは債権小国として生き残る道が想定されているのであろう。
イギリスこそは、この「発展段階説」のモデルというべきで、ビクトリア循環は成熟段階にいたった後、第一次世界大戦をきっかけに変調を来す。
イギリスは、新興工業国・ドイツと対決する連合国側の盟主として戦費を調達するために、アメリカなどから借り入れを行う一方、自らの購入してきた米国債や連合国側の保有する大量の債券類をニューヨーク市場などで売却した。
さしもの対外資産も、相当の侵食を余儀なくされイギリスの大債権国としての基盤を揺るがしたが、これに拍車をかけたのが、7九二九年、ウォール街の大暴落を契機とする世界恐慌であり、それに続く一九三〇年代の世界経済の混乱であった。
イギリスの中心的債権国としての地位は後退し、資本輸出の中心はアメリカに移る。
こうして第二次大戦後にはパクス・アメリカーナが確立することになるわけだが、それでも投資収益等の寄与によるイギリスの経常収支の黒字は、驚くべきことに、一九八六年まで崩れなかった。
九〇年代に入って経常赤字国に転じることはあっても、債務の累積が長期にわたって資産残高を越えるということはなく、イギリスは、日本、ドイツに次ぐ世界第三位の純資産国として踏みとどまっている。
いかに一九世紀からの対外投資が手厚かったかを物語るものといえよう。
一方、鉄道建設などに、主としてイギリスから大量の資本を導入していたアメリカは、第一次世界大戦前には世界最大の工業国の地位を固め、大戦を契機に債権国、資本輸出国に変貌をとげていた。
第一次大戦の圏外にあったことが幸いして、工業力を無傷のまま維持できたため、戦中から輸出を急増させ、ありあまる外貨で負債の償却や直接投資を行うことができた。
その結果、第一次大戦後の7九一八年には、GNPの八%近い対外純資産を持つにいたっている。
さらに一九三〇年には海外投資残高がイギリスとほぼ肩を並べ、その後はまたたくまに差を広げて、「中心的資本輸出国」の座についたのである。
イギリスのケースとは異なり、アメリカの民間対外資産の中では直接投資が半分以上と、その中心を占めていた。
地域別にみると、第二次大戦までは、アメリカが軍事的、政治的影響下においていた「内庭」の中南米諸国が主要な投資の対象であった。
ホワイト格ケインズフランス文化相であったアンドレ・マルローは、かつて「アメリカは、自ら求めないで世界覇権を得たおそらく唯一の国である」と語ったことがある。
しかし、マルローのこの認識は国際政治の現場を見る眼としては、いささか文学的にすぎた。
パクス・アメリカーナの成立は、自然の成り行きというだけでなく、マネーこそが覇権の基盤であることを認識していたアメリカの、周到な戦略、演出によるものであった。
第二次大戦後のアメリカは、企業の多国籍展開による直接投資を武器に、すでに世界最大の債権国の地位についていた。
また、国土を直接にはほとんど戦火に曝さなかった唯一の戦勝国として、その工業力、経済力も群を抜いていたが、そうした有利な条件にもかかわらず、戦後のマネー秩序を決定するブレトンウッズ会議で、ドルの支配が自動的に確立するというわけにはいかなかったようである。
基軸通貨としてポンドの命脈は尽きていたけれども、この会議で、イギリスはケインズ案として、新たに国際決算同盟とその通貨単位である「バンコール」の創設を打ち出し、ドルの浮上を抑えようとつとめた。
これに対して、ウォール街の利益を反映させ、ホワイト案を押したてたのがアメリカだった。
基軸通貨ドルを前提に、国際通貨基金を、いわばその分身として生み出そうと試み、両案せめぎ合うなかでようやくアメリカは勝利を得たのである。ただし、後述するように、基軸通貨としてのドルは、中央銀行間ではなお、金とのリンクを維持するものとされ、これによって将来のドルの暴走に歯止めがかけられるとして了解された。
ドルをいかに散布するかもちろん、現実には基軸通貨の交代が瞬時に実現するはずもなく、ドルは、さまざまな問題に直面する。
まず第一に、とくにヨーロッパで、ドルは、従来の基軸通貨であるポンドを押しのけて広がらねばならなかった。
アメリカは大戦中から、武器貸与法に基づく対欧軍事援助に際して、つとめてドルを使用する等の手を打ってきたが、戦後は東西対立を背景にヨーロッパの復興援助のためのマーシャル・プランを実施した。
この一三〇億ドルに上る対欧復興援助は、アメリカの寛容さを示す伝説となっているが、それがドル建てで行われ、ドルがポンドを押しのけてヨーロッパに浸透するために活用された経緯は伝説の陰に隠れてしまった感がある。
対外決済通貨が絶対的に不足していたヨーロッパは、貿易収支を決済するための機関としてEPUを設けた。
アメリカはその決済のために、マーシャル・プランによるドルを提供し、その結果、自然に貿易がドル建てで行われるようになった。
ヨーロッパにおけるドルの基軸通貨化の過程には、こうしたアメリカの周到な戦略があったとみるべきであろう。
問題の第二は、ドルそれ自体の不足である。
アメリカが大幅な貿易黒字をあげているもとで、決済通貨にドルが使用されれば、必然的にドルはアメリカに吸い上げられる。
ドルがアメリカへ集中するだけで、国外への適正規模の流出がなくては、マネーの適切な国際循環システムとはいえないだろう。
マーシャル・プラン等の対外援助が、このドル不足問題にも役だったことはいうまでもない。
加えてアメリカは、ついに国内市場の対外開放に踏み切った。
よく知られているように、パクス・ブリタニカの自由貿易体制の時代に、後発工業国として出発したアメリカは、一九世紀以来、その巨大な市場を常に高関税などで保護してきた。
この伝統的政策を転換し、自由互恵の原則を通商政策の基本に据えたのである。
第二次大戦後に成立するガット体制に、アメリカの果たした役割は大きいが、マネー循環の視点から見るならば、アメリカが自由貿易主義を選択し、自ら求めて輸入増を志向したのは、ドルを海外に散布し、国際的なドル支配をうちたてるためのコストでもあった。
く'蝣*対外資産と政治的パワーやがて各国で戦後の復興が進むと、アメリカの次の戦略は、ドルによる対外投資である。
これによってアメリカのマネー・パワーはいっそう強固なものになる。
四〇年代から五〇年代にかけて蓄積した貿易収支の膨大な黒字を、対外投資にふり向けることによって、アメリカは六〇年代には資本輸出国として絶頂期を迎える。
その中軸はひき続き直接投資で、アメリカは、化学、石油、自動車などの生産、販売拠点をヨーロッパに移動させている。
それは当時のヨーロッパ人に、「アメリカの挑戦」と映り、少なからぬ脅威感を抱かせた。
一九六〇年の時点では、対外資産(八六〇億ドル)のうち、直接投資は三七%でヨーロッパ向けはさらにその二割に過ぎなかった。
それが十年後の七〇年には、「アメリカの挑戦」の結果、対外資産は一六六〇億ドル、その五割近くを直接投資が占め、その三分の一がヨーロッパに向けられるまでになった。
製造業の場合、七〇年の海外生産比率は、資産ベースで一0%弱にまで高まったと見られる。
対外債権が、一定の政治的パワーを生み出すことをアメリカはよく認識していた。

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